日本において高機能複合材料の生産技術開発が始まったのは1934年(昭和9年)、私が生まれる10年前のことである。即ち、欧米列強との生存競争において対等に戦うためには、当時の重要な軍事戦略技術である銀塩写真感光材料の国産化が必須課題であり、映画用の写真フィルムを国産化する使命を担って富士写真フイルム株式会社が創立された年である。それまで我が国では映画用写真フィルムを製造することが出来ず、全量を欧米からの輸入に頼っていた。銀塩フィルムのような高度な生産技術を必要とする製品が国内では作れなかったのである。勿論、銀塩写真の基礎技術そのものは200年以上前に発明されており、当時としては誰でも知識として知っている技術ではあったのだが、知っているのとそれを工業的に生産できるのとはそのレベルにおいて大きな違いがあることを十分認識しなくてはいけない。
また、何ゆえに映画用写真フィルムが軍事戦略的な必須技術であったのかと訝る方も多いだろう。人類が手にした先端技術というモノは皆、その時々の軍事戦略的な目的に端を発している。即ち、如何に相手と有利に戦うかということなのである。
この歴史的法則は、現代においても当然生きており、世界を制覇するためには先端分野の生産技術開発力というものがその国の軍事的、国際経済的な序列を決めているといっても過言ではない。核兵器やミサイルの技術ばかりではなくスーパーコンピュータによるシミュレーション、人工衛星を使ったGPSナビゲーション、レーザーによる集積回路微細加工や耐熱性プラスチック、炭素繊維材料といった先端材料分野などと同じように、映画用写真フィルムの製造は当時の軍事戦略的な重要技術であったのだ。
映画用写真フィルムが軍事目的として使われて、それがその国に経済発展をもたらしたのではない。その生産技術の発展が、従来の映像文化を一新し、新しい文明を生み出したのだ。日本が20世紀最大の失敗国家と言われた程のどん底から立ち上がり、戦後半世紀足らずの間に奇跡的な復興を遂げ、最大の成功国家(GDP世界2位)に変革して行く過程でこの映画用写真フィルムの生産技術開発の果たした役割は計り知れないだろう。
私は、1968年(昭和43年)に東京大学工学部化学工学科を卒業し富士写真フイルム株式会社に入社して生産技術開発の一端を担当することになった。当時はまだ国産写真フィルムの生産技術は世界の巨人、イーストマン・コダック社(米国)のレベルには遠く及ばず、貿易自由化、資本自由化と矢継ぎ早に次々と押し寄せる国際化の荒波をどのように凌ぐかで、戦々恐々と緊張に満ちた日々を送っていた記憶が今でも鮮明だ。だが、この難局を突破する最大の武器は独自の生産技術開発であったということを私達は身を以って体験した。日本の製造業が経営資本力と生産や売り上げの規模、市場シェアと利益率、先行知財力と研究開発資金力、過去の経験、製造ノウハウの蓄積量などなどどの指標をとっても圧倒的に勝る先行企業に立ち向かい、対等に戦う手段をどのように探したらよいのだろうか。この難題に明解な回答ができる経営学者や企業経営者は、今の時代恐らくどこにもいないのではないだろうか。彼らは常に「寄らば大樹の陰」で、逆転の発想というものが著しく欠けている。
生産の現場を知らない、テクノロジストではない人達にこの答えを求めるのは酷というものだろう。
私の生産技術開発の技術コンサルティングにおける最大の関心事が正にこの点にあること、そして日本の製造業が21世紀に、LCCと対抗する手段は生産技術開発しかないということを伝承するのがサブラヒ・テクノロジストグループのモノ作りニッポン、生産技術開発技術コンサルティングの中核テーマである。
安倍政権は、「戦後レジームからの脱却」を掲げ失敗した。
我々が今、最も真剣に取り組まなければならないのは、1990年代の『バブル経済政策の失敗レジームからの脱却だったのだ』
あの頃は、いわゆる就職氷河期と言われた時代で毎年排出される優秀な新卒人材に活躍の場を与えることをせず、彼等の多くが中国などに流れてしまった。国内に残った者は、フリーターなどという勝手なレッテルを貼られて社会的な虐待を強いられている。その結果を少子化や地方の過疎化と言いくるめ、辻褄の合わなくなった年金問題で危機感を煽る誤った認識を正さなければならない。
多少数は減っても、質の高い人材を適切な分野に正しく配置できれば、我が国にとって少子化などは追い風にはなっても、何も問題とすべきことではない。世界中が地球温暖化という問題で騒いでいる中で、我が日本は国家全体の消費エネルギーを最少にできる潜在的ポテンシャルを有する最強の国家である。地球温暖化問題の最大要因は、人口増大であることを忘れてはならない。
少ない人材を有効に生かす分野は、先端分野の生産技術開発しかないというのがサブラヒの結論である。
2007年09月30日
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